王とサーカス(米沢穂信)
「このミステリーがすごい!」2016年版第1位、本屋大賞候補作。
ミステリー好きなのでこのミスは結構参考にしている。
実在の事件をモチーフにしており、最初は主人公の太刀洗万智がその謎を解くのかと思っていた私の予想は呆気無く覆された。
主人公の太刀洗万智は取材をしながらもなぜ自分が書くのか、ということに迷いを感じている。
「タチアライ。お前はサーカスの座長だ。お前の書くものはサーカスの演し物だ。我々の王の死は、とっておきのメインイベントというわけだ」
書くことによってその出来事は娯楽として消費される。日々ニュースを消費している自分には刺さる言葉だった。確かにニュースはいっときの話題を提供したあと自分の前から流れ去ってゆく。ニュースの中に存在する人々を置き去りにして。
人は常に刺激を求めていて、その刺激を提供するのがジャーナリスト。自分は消費する側として、どう向き合っていけば良いのだろう。考えているが、うまく答えを出すことができない。
物語の中で発生する事件の結末は苦さをもたらす。「サーカスの演し物」を提供する太刀洗万智に向けられる感情。それはあまりに苦いものだけれど、この小説の根幹をなす部分でもあるように思う。
ミステリーとしても非常に良く出来ている。前半部分、私が勘違いして読み進めていた部分から後半の非常にきっちりとした展開。謎解きも非常に面白い。
だが個人的には、自分はどうやって「サーカスの演し物」に向きあえば良いのだろうか、と考える一作になった。